12月
13

2011/12/13【次期戦闘機に欧州製の機体を選定する意義】

航空自衛隊の次期戦闘機の機種選定が今週中にも決定する予定です(※1)。旧式のF-4戦闘機の代替えとして遡上に載っているのは、米国製のF-35とFA-18、欧州製のタイフーンの3機種です。

現代の戦闘機の優劣を判断する要素は様々ありますが、その一つにステルス性能があります。ステルスとはレーダーに映りにくくする技術で、ステルス機と非ステルス機の戦闘においては、圧倒的にステルス機が有利とされます。この3機種のうち、純粋にステルス機とされるのはF-35のみです。FA-18については、米海軍などが運用している機体に比べステルス性能を高めた改良型を提案していますが、タイフーンと共にそのステルス性能は限定的です。従って、F-35が今回の機種選定の本命と目されています。

しかし、最近、このステルス技術に関して気になるニュースがありました。11月下旬から12月上旬にかけて、米国の最新鋭ステルス無人偵察機RQ-170とされる機体が、偵察任務中にイランによってほぼ無傷の状態で押収され、中国やロシアがその機体の調査を申し出ているとのことです(※2)。イランは、調査結果やその技術的成果の提供などを条件に調査に応じる可能性があり、最新のステルス技術が中露に流出する可能性が出てきました。RQ-170とF-35のステルス技術にどの程度の違いがあるか定かではありませんが、少なくとも同種の技術がつかわれている可能性があり、中露に対するF-35の優位性が相対的に低くなります。

しかも、F-35は製造に当たって日本メーカが関与できる割合が他の2機種に比べて低いと見られ、国産のF-2戦闘機の生産終了に伴い、日本メーカの戦闘機の開発・生産能力の維持が懸念されます。日本側には、将来的に戦闘機の国産化も視野に入れていますが、重要な技術がほぼブラックボックス化される見込みのF-35では、得られる技術が少ないため、ライセンス生産に当たってノーブラックボックスを標榜するタイフーンは、日本の防衛産業の維持・発展に貢献できます。ちなみに、FA-18は基本設計の淵源が1970年代と古く、今後20年以上にわたって、各国の最新鋭機と対等に渡り合うには心もとない状況です。

従って、タイフーンを選択することは、あながち間違いではないと考えます。欧州製の機体は日本の防衛システムとの連携に疑念があるのも事実ですし、米国製以外の機体を選定することは普天間問題でぎくしゃくする日米同盟に少なからず影響を与えます。しかし、ユーロ通貨危機に対する中国の資金援助への期待を背景に、中国への武器輸出規制の緩和が取りざたされている欧州に対して、総額数千億円とも言われる次期戦闘機の調達でタイフーンを選定することは、欧州経済を助け、日本の安全保障上も意義があります。

純粋に性能や価格で評価するといいながら、「政治的な理由でFA-18に落ち着いた」などということが無いように、防衛省・政府の判断を見守りたいと思います。

※1:12月12日付朝日新聞http://www.asahi.com/politics/update/1212/TKY201112120080.html

※2:12月11日付産経新聞http://sankei.jp.msn.com/world/news/111211/amr11121114250003-n1.htm