11月3日、中国はG20サミットに合わせて、「ギリシャからの輸入を拡大し、ギリシャのインフラ整備への中国企業の参加を支援する」との声明を発表しました。
ユーロ危機を受けてEUは、今まさに藁をもつかむ思いで「チャイナマネー」に頼ろうとしています。
G20サミットで全くと言っていいほど存在感を示せなかった日本とは対照的に、中国は豊富な資金と外交力を駆使して、「ギリシャ危機」を好機として、欧州での存在感を飛躍的に高めています。
中国の欧州への接近の背景には、「対中武器禁輸の解除」や「ハイテク製品の対中輸出制限の緩和」などの国益を獲得する狙いがあります。
この動きに対して、EUのアシュトン外交安保上級代表は「EUは中国との強固で建設的な関係を望んでいる。中国の主張に耳を傾けることに前向きであることが重要だ」と述べ、対中武器禁輸措置の解除の可能性を示唆しています(※)。また、フランスは昨年も対中武器禁輸の解除を検討していたとの報道もあり、対中武器禁輸の解除に積極的との観測があります。
フランスは今年6月に、米国などの度重なる警告を無視して、ロシアに最新鋭の強襲揚陸艦を売却する契約を結んでいます。
強襲揚陸艦は戦車などの兵力をヘリコプターなどにより陸上に運ぶ艦艇であり、ロシアはこの強襲揚陸艦を極東地域に配備するとしています。
また、フランスは過去に中国に対してヘリコプターをライセンス輸出した経緯もあります。
近代的なヘリコプターを持たなかった中国は、このヘリコプターを基に開発した機体が現在の軍用ヘリコプターの主力となっています。
欧州の対中武器禁輸が解除され、最新の兵器システムが中国に供与されることになれば、中国の軍事力が一層強化されます。
考えすぎかもしれませんが、例えば、仏製の最新鋭戦闘機ラファールが供与されれば、東シナ海における日本の航空優勢が完全に失われる恐れがあります。
フランスは、日本の次期戦闘機FXの選定に際して、日本政府は政治的に仏製戦闘機を採用するはずがないと、はなから参加していません。
莫大な開発費の掛かったラファール機は商業的には成功しておらず、艦上機として使える同機は空母艦隊の構築を目指す中国とお互いの思惑が一致する部分があります。
「人権」や「自由」といった民主主義の基本的な概念を尊重するフランスが、チベットやウイグルなどで人権弾圧を続け、民主化運動を抑圧する中国に対して、正当化できない行動を取るとは考えたくありません。
しかし、野田首相は「ギリシャ危機」の真っ只中のG20サミットにおりながら、「円高に対する単独介入」の釈明や、「消費税増税の国際公約」など、世界からの関心がほとんどない、あまりにも内向きな内容の発言ばかりでした。
日本はユーロ危機を救う力を持っているにもかかわらず、具体的な支援策を提示できませんでした。
これでは、EUが目先の利益に飛びつくことも考えられます。
大きく変動する恐れのある国際政治の中にあって、日本政府がこのような「外交の失敗」を続けていれば、日本の国益を守るどころか、国民の生命・財産・安全を脅かすことにもなりかねません。
※:11月3日付読売新聞http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20111103-OYT1T00330.htm