巨大なネズミ講とも揶揄される現行年金制度ですが、2010年度の国民年金納付率は59.3%と過去最低になりました。
そんな中で厚生労働省は、非正規労働者が新たに厚生年金や健康保険に加入した場合の、給付と負担の変化に関する試算を社会保険審議会の特別部会に提示しました。
その試算によると、厚生年金に1年間加入すると、給付額は生涯で約173,000円増えるとのことです。
つまり、64歳で年金支給が開始された後の約27年間で、月額にして「500円」増えるだけです。さらに、厚生年金や企業の健康保険に加入できる要件を、現行の「正社員の4分の3(週30時間)以上の労働」から「週20時間以上の労働」に緩和することも検討中とのことです。
これらは、「全額自己負担の国民年金や国民健康保険よりは、短時間でも働いて厚生年金や健康保険に加入した方が割安でお得ですよ」と国民にアピールし、納付額を増やしたい狙いがあるのでしょうが、個人が“割安”になる分を負担するのは、雇用する側の企業であることを忘れてはなりません。政府が有効な経済政策を打ち出せない中での企業の負担増は、企業体力を一層奪います。
また、専業主婦に多い「第3号被保険者」の年金受給の方法を見直そうという案が9月29日、厚生労働省から示されました(※:9月30日付読売新聞http://www.yomiuri.co.jp/job/news/20110929-OYT8T00616.htm)。
第3号被保険者は、配偶者が「2人分」の保険料を納めていると見なし、実質的には個々人で保険料を納めていないが、第1号被保険者と同じ基礎年金を受け取る資格を得ているため、不公平感を持たれています。
現行では厚生年金保険料を夫が扶養する妻と2人分を納付している形になっていますが、今回の厚生省の見直し案では、夫婦2人がそれぞれに負担していると解釈し、受給時には、夫の基礎年金に上積みされている額を、夫婦に二分割して受給できるようにしようとしています。
保険料納付時には専業主婦の「内助の功」を認め、一見「女性の権利」を尊重する制度に改正されるように見えますが、実際には、例えば夫が先に亡くなった場合、妻が「遺族年金」として受給できる夫の厚生年金分は現行では生前の4分の3ですが、厚労省の見直し案では分割された2分の1に減ります。つまり、これも政府が支給する年金額を減らすことが目的の改正といえます。
民主党政権になって、年金制度改革について鳴り物入りで登場した長妻元厚労相も、期待した成果には程遠く早々に交代しました。
厚生労働省がこのような姑息な手段を取ろうとしているということは、そもそも、少子高齢化の時代には賦課方式の年金が成り立っていかないことを示しています。
若年世代向けに積立方式の新たな公的年金の創出や、現行の公的年金の破たんを見すえ年金国債の導入など、抜本的な制度改革を行う必要があります。