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2011/08/25 【アジアの米軍基地再編と沖縄―普天間移設問題に関する米議会の立場―】

【アジアの米軍基地再編と沖縄―普天間移設問題に関する米議会の立場―】フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年8月号 ジム・ウェッブ(米上院外交委員会東アジア・太平洋小委員会委員長、元米海軍省長官)よりhttp://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201108/Webb.htm

何年もかけてまとめた外交合意を変更するには、具体的な代替策が必要になる。そこで、私とレビン上院議員が(普天間の移設問題に)介入した。

われわれはグアム、沖縄、東京で、米軍及び相手国・現地の関係者から意見を聞いた。

その後、まとめた提言では、普天間の海兵航空隊機能を嘉手納空軍基地に移して統合すれば、手詰まり状況を打開し、よりタイムリーにコスト面でもより効率的に問題に対応できると指摘した。

われわれは嘉手納空軍基地の規模の削減も提言したが、この点は日本のメディアではほとんど報道されなかったようだ。

嘉手納基地から削減される戦力を、日本における他の空軍基地、現状では機能の半分も使用されていないグアムのアンダーソン空軍基地に移すこともできる。

<アジアのバランサーとしてのアメリカ>

私が愛情を感じているアジアはアメリカにとってきわめて重要な地域だし、アジアにとっても、繁栄と戦略バランスを維持していくにはアメリカの存在が不可欠だ。

世界の他の地域で厄介な問題を抱えているとはいえ、アジア地域の安定に必要な措置がとられていると人々は当然視しがちだが、必ずしもそうではない。

中国、ロシア、日本の利害が直接的に交錯するのは世界で北東アジア地域においてだけで、その中枢に朝鮮半島が位置している。

第二次世界大戦後にアメリカがこの地域で果たしてきたパワーバランサーの役割は非常に重要だった。第二次世界大戦直後の北東アジアはどのような状態にあっただろうか。

日本が対外軍事キャンペーンを止めて、自国領土へと戻り、ヨーロッパの帝国主義パワーのプレゼンスも低下し、その多くは植民地を手放すことになった。当然、この地域は大きく不安定化するリスクがあった。

このリスクが現実と化したために、アメリカはアジアのパワーバランサーとしての役割を担い始めた。

米軍は大きな犠牲を払って、地域的な安定の実現に貢献した。1950年から53年の朝鮮戦争、その後のベトナム戦争で、われわれは10万を超える将兵を失っている。

こうしたアメリカのアジアへのエンゲージメントの詳細をここで述べるつもりはないが、われわれの世代における「知の巨人」の一人であるシンガポールのリー・クアンユーは、ベトナムにおける米軍の活動のおかげで東南アジアは安定し、他の諸国においても政治制度が定着したと語り、ベトナムに米軍が関与していなければ、「その後のアジアの経済的成功はなかったかもしれない」とさえ述べている。

ベトナム戦争以降、ソビエトが東アジアと東南アジアへの影響力を高めるようになるにつれて、われわれは東アジアのパワーバランスを維持することへと路線をシフトさせた。

1980年代半ば、私がペンタゴンで海軍長官を務めていた当時、ソビエトは東アジアに37万の地上戦力を展開していた。85のバックファイアー爆撃機、2400の戦闘機を配備し、ソビエト海軍で最大の艦隊は、600隻を要する太平洋艦隊だった。

太平洋艦隊は二隻の空母を短期間で太平洋に派遣できる臨戦態勢をとっていた。実際、1980年代のベトナムのカムラン湾は、25のソビエトの戦艦の母港とされていた。

アメリカは、こうしたソビエトの軍事プレゼンスを地域的安定にとって憂慮すべき脅威とみなしていた。

こうしたソビエトの影響力拡大に対抗するために、アメリカは中国との関係を強化しようと試み、これが多くの意味で中国の経済的台頭に向けた環境を作り出した。

だが、時とともに、われわれがその離陸に手を貸した中国の経済的台頭が他の領域で問題を作り出し、アメリカの脆弱性を作り出している。

例えば、最近の南シナ海における中国の行動は、地域的な安定を重視する、アメリカを始めとする数多くの諸国の立場からみて、大いに問題がある。

さまざまな展開があった。ソビエトが崩壊し、中国経済が成長するにつれて、北京は軍事力を近代化して洗練し、こうした背景のもとで、南シナ海での活動を積極化させている。

一方、9・11以降、アメリカはアジアに十分な関心を払わなくなった。「アジアの問題は、イラクやアフガンの問題に比べれば、アメリカにとっての重要度は低い」とみなされるようになったからだ。

この構図をいかにして覆すかをこの5年にわたって私は考え続けてきた。

アジア諸国のすべては、アメリカの地域関与がいかに重要かを知っている。彼らのためにも、そして、アジア地域の安定にとっても、アメリカのアジアへの関与は重要だ。

一方、アメリカにとっても、アジアにおける影響力を維持し、各国との戦略的パートナーシップを経済的、文化的、軍事的に維持していくことはきわめて重要だ。

引用、以上

本記事を書いた米上院のジム・ウェッブ議員(民主党)は今年5月20日、レビン軍事委員長らと共に、嘉手納基地所属部隊の縮小も盛り込んだ米軍普天間飛行場の嘉手納基地統合案を提言した議員です。

彼らは、騒音の多いジェット機を嘉手納基地から日本周辺のアメリカの別の施設に移動させることを提案しており、アメリカ軍が日本から徐々に撤退していく兆候が現れています。

日本としては、日米同盟を堅持しつつも、冷戦以後の安全保障戦略や自主防衛に関して再考する良い機会ではないでしょうか。

アメリカに過度に依存する現在の体制では、アメリカの影響力が後退した場合、身動きが取れなくなってしまう可能性が非常に高くなる恐れがあります。

アメリカ議会における動きを日本が逆に利用し、安全保障戦略上の様々な不具合を改善していく良い機会になるのではないかと思います。

自衛隊の体制、ロジスティクスの問題など現実的に解決しなければならない問題はたくさんあり、速やかに解決する必要があります。

また、アメリカと日本が太平洋の両岸にあり、強力な海軍力で海上における両国の国益を守るパターンは、地理学上のポテンシャルからもたらされる現実的な戦略であるので、今後も大筋では変わることはないと考えられます。

ただし、日本は、今後、自国にかかってくるウエイトが増大していくことを引き受けるか否かという問題に直面します。

それは、「日本が世界を名実ともに牽引する覚悟があるのか否か」という問いを突き付けられることを意味します。

日本は国家戦略をいち早く確立し、世界における主導権を握っていかなくてはなりません。