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2011/06/27 【米国のアフガン撤退計画】

【米国のアフガン撤退計画】2011年6月27日 産経より

オバマ米大統領は22日、対テロ戦争が続くアフガニスタンからの米軍の撤退計画を発表した。

駐留米軍約10万人のうち年内に1万人、来年9月までに3万3000人を引き揚げる内容で、予想より撤退規模は大きかった。

米欧や周辺国からは早くも、来年11月の米大統領選をにらんだ「政治」優先への批判と、治安悪化への懸念の声が上がっている。

■デーリー・テレグラフ(英国)「孤立主義に回帰する恐れ」

英保守系紙デーリー・テレグラフの政治解説者、ピーター・オボーン氏は「アフガニスタンから逃げ出す欧米は世界を不安定化させる」と題した24日付コラムで、米国が撤退により「世界の警察官」の役割を果たせなくなり、伝統的な孤立主義に回帰する恐れがあることに強い懸念を示した。

オボーン氏は、ニクソン大統領時代のベトナム化政策と、オバマ大統領のアフガン撤退計画を比較する。

ベトナム化政策とは、南ベトナム軍を強化して米軍を南ベトナムから撤退させる計画で、オバマ大統領の撤退計画と確かに似ている。

ベトナム戦争では米兵6万人が命を落とし、イラクとアフガンでは計6千人が亡くなった。

ベトナム戦争時、米国の財政赤字は現在の貨幣価値で270億ドル、政府債務残高は1・8兆ドルだったのに対し、オバマ政権は今、60倍超の財政赤字(1兆6600億ドル)と8倍近い政府債務残高(14兆ドル)に苛(さいな)まれている。

オボーン氏はその上で、アフガンから米軍が撤退すればタリバンが勢いを増し、「カルザイ大統領は国外逃亡に追い込まれ、アフガンはおぞましい内戦状態に陥る危険性に直面するだろう」と、ベトナム同様の一層の混乱を予測する。

ただ、オボーン氏は「ベトナム撤退で米国の世紀は終わるといわれた。しかし米国は逆に地球規模の成功を収めた」と解説。

ソ連を牽制するとともにベトナム戦争を終結に向かわせた電撃的な「ニクソン訪中」にも言及する。

オバマ大統領にそのような秘策は見当たらないが、オボーン氏は「われわれは新しい不確実な世界に向かっている。オバマ大統領は(孤立主義に回帰するのではなく)米国が世界で果たす役割を再定義する必要がある」と結んでいる。

■ワシントン・ポスト(米国)「戦略上の明確な根拠無し」

「戦略上の明確な根拠がないオバマ氏の撤退決断は(米国のアフガニスタンでの)失敗のリスクを高めるだろう」

23日付の米紙ワシントン・ポストは社説で、オバマ大統領のアフガン駐留米軍撤退計画は軍事的な根拠に乏しいと指摘し、アフガン情勢の不安定化が、核兵器を保有する周辺国のパキスタンやインドにも広がりかねないと警鐘を鳴らした。

「オバマ大統領は戦略よりも政治を優先した」と批判の声が上がる中、同紙は、大統領の発表は撤退に関する「軍事面、戦略面での説得力ある根拠を示すことができなかった」と主張。

米国の拙速な撤退は、2014年末までに治安権限をアフガン政府に移譲する北大西洋条約機構(NATO)の構想にも狂いが生じかねないと懸念する。

イスラム原理主義勢力タリバンは米軍の規模が縮小する来夏まで戦力を温存する可能性があり、戦闘長期化は避けられないとの分析が背景にある。

さらにアフガン情勢での米国の消極姿勢は、対テロ戦争へのパキスタンの協力態勢にも微妙な変化をもたらすと警告。タリバン復活は「周辺地域の深刻な不安定化を招く」と指摘した。

それでもオバマ政権が撤退を決断した理由として同社説は、厭戦機運が高まる米国世論を挙げた。

大統領自身が増派を決めた3万3千人の撤退は「政治的重圧を緩和しながら、14年の権限移譲を完結させるために十分な戦力を(米軍の)指揮官に与えること」を狙ったものだと分析する。

だが、現状でも不安定なアフガンの治安を規模が縮小された米軍が維持できるのかは不透明。

大統領支持層は、来夏以降も約6万8千人が駐留を続ける点を強調するが、社説は「(駐留米兵が)十分に足りていることを願いたい」と皮肉交じりに疑問を呈している。

引用、以上。

今回のオバマ大統領のアフガン撤退計画は、明らかに時期尚早です。それは、アフガン北部を抑えるタリバンと、隣国パキスタンの存在と関わるからです。

アフガニスタンとパキスタンの政治情勢の不安の増大は、世界にも大きな影響を及ぼします。

アフガニスタンやパキスタンなどのアジアと中東の境目にある地域は、地政学上からも非常に不安定な地域であると言えます。

特にアフガニスタンとパキスタンは「バルチスタン地方」と呼ばれている独立運動の火種を抱える地域で結びつけられ、更に両国の隣国であるイランの存在も情勢の不安定さに拍車をかけています。

アメリカがアフガニスタン情勢に介入しているのは、イランの動きを見据えてのことでもあります。

本来であれば、アフガニスタンの情勢の好ましい変化、アフガニスタン政府とタリバンが和解するか、タリバンが壊滅するまでは、アメリカは軍を撤退させるべきではありませんでした。

現在のアフガニスタン政府には事態を解決する能力が乏しく、一方のタリバンは北部に隠然たる力を持っているからです。

加えて軍部の力が強いパキスタンを中国が取り込もうとしており、事態を複雑なものにしています。

そのため、アメリカの軍事力を背景とした同地域の安定化が求められていたのです。

今後、米軍の撤退に応じて、同地域が世界の不安定要因となっていくことが予測されます。