【「巨悪」中国に対するアジアの静かな怒り】2011年6月1日 Financial Timesより
中国は南シナ海のほぼ全域について領有権を主張しているが、南シナ海にはマレーシア、ブルネイ、インドネシア、ベトナムも接している。
これらの国は「島のあるところ、海洋権あり」の原則に基づき、自国沿岸沖の海域について重複する権利を主張している。
ハノイは、中国が自らの領有を示そうと、地図に描いた南シナ海全体を囲む点線を、垂れた「雄牛の舌」のようだと嘲っている。南沙諸島や西沙諸島についても、複数の国が領有権を主張している。
ハノイと北京は、米バージニア大学の政治学教授、Brantly Womackが言う「非対称の関係」にある。
通常、そうした関係では、弱小なベトナムは中国に敬意を表さざるを得ないものだが、これは、中国がその代わりにべトナムの「利益と自治」を尊重した場合にのみうまく行く、とWomackは言う。
彼が描き出す関係は、かつて諸王国が中華帝国に叩頭した朝貢制度に似ている。
中国に敬意を表し、中国の優位を認めた国は、大方放任しておいてもらえる。
ベトナムとの小競り合いは、これに似た現代の朝貢制度を創ろうとする試みのように思える。
インド、そしてもしかすると日本を除いて、アジアの全ての国は、ベトナムと同様、中国とは非対称の関係にある。
例えばフィリピンだが、フィリピンもフィリピンの沖合いで自国の石油探査船が中国船に妨害されたと不満を言っていた。
しかし、この問題を当時の大統領候補、ベニグノ・アキノにぶつけたところ、アキノは、二流の海軍とジェット戦闘機を1機も持たない空軍しかないフィリピンに出来ることはほとんどない、「ボクシングの試合に例えれば、こちらは1人、相手は15人だ」と言った。
短期的には、中国の強硬な姿勢はかえって逆効果だったように思える。
アジアの中小の諸国はASEANの下に結束し、米国にも接近している。
そして、米国は、太平洋地域で強力なプレゼンスを維持すると改めて宣言し、南シナ海を核心的関心の対象と呼んで中国を苛立たせている。
しかし、中国の海軍力が増大しつつあることは皆が承知している。それにつれて、地域における米国の影響力が低下することも間違いない。
「米国に援けを求めたら」とアキノに訊いたところ、アキノは言下に「その時に米国がいれば」と応えた。
ベトナムやフィリピンのような国は、米国の支援・支持を喜んでいる。
しかし、これらの国も、早かれ遅かれ、自分たちがいずれ中国と妥協しなければならないことを知っている。
引用、以上。
中国の海軍力の増大と、アジア地域における米国の影響力の低下の中で揺れ動き、難しい舵取りを強いられている東南アジア諸国の苦悩が伝わってきます。
マレーシア、ブルネイ、インドネシア、ベトナム等の東南アジア諸国が、中国の朝貢国になることを甘受するのか、それとも米国をリーダーとして引き続き自由と独立を守り抜くのか、ギリギリの外交が展開されています。
中国の軍事力増大と米国の影響力低下の隙間を埋めるように、日本が東南アジアで影響力やプレゼンスを発揮していかなければ、東南アジア諸国が中国へとなびいていくことは早かれ遅かれ、避けられない状況です。