【与野党から総スカンの菅政権、なぜ首相はこんなに批判されるのか】2011年5月23日 日経BPより
東日本大震災や東京電力・福島第一原子力発電所事故への対応をめぐり、菅政権が厳しく批判され、「永田町」が揺れている。
自民党は「菅直人首相の退陣」を条件に大震災の復旧・復興に限定した大連立に言及。また公明党とともに内閣不信任案を提出する方針を示している。
一方、民主党内でも小沢一郎元代表を支持する勢力が「菅降ろし」を目論む。その動きに手詰まり感があると見ると、西岡武夫参院議長が菅首相の早期退陣を求める――。
これほど評判の悪い首相、政府も珍しい。では、一体なぜ批判の大合唱となっているのか。その論点を整理してみたい。
大地震発生から6日後の3月17日、自衛隊のヘリコプターによる福島第一原発3号機への散水が4回行われた。
しかし実際には、「霧状」になった水のカーテンがかろうじて原子炉建屋を湿らせた程度のもので、あれをテレビで目にした国民は原発事故対応への不安を一気に募らせたに違いない。
イラク復興支援の初代隊長として活躍した「ヒゲの隊長」こと佐藤正久・自民党参院議員は「防衛省としては、ヘリコプターによる放水はあまり効果がないということで、慎重論もあった」が、「最終的に菅首相の方から指示があって、放水作業が行われました」と語る。
佐藤議員は次々に変更された初期の原子炉冷却作戦について、「冷静に見ると、順序がおかしいんです。ものの見事に、一番効果が少ない順番に投入しているんです」と振り返る。
その原因は、菅政権が危機管理に慣れておらず、「つまみ食い的に思いついたことから」やったためだと指摘する。
さらに驚いたことに菅首相は、昨年10月に行われた「原子力総合防災訓練」について、4月18日の参議院予算員会で「記憶にない」と答弁している。
浜岡原子力発電所の事故を想定したものだったが、「記憶にない」では何のための訓練なのか。
猪瀬氏は「あきれた答弁である。いくら防災訓練をしていても、それを生かせないトップでは意味がない」と断じる。
リーダーシップの欠如した菅氏が首相の座にあることが災害そのものだという声が少なくない。
田原総一朗氏は「原発事故を含めて『天災ではなく人災である』という声が強まっているが、民主党内では『人災ではなく、もはや“菅災”である』との強い不満を抱く議員が増えている」(「民主党内にも広がる『これは菅災だ』との批判」)と永田町の事情を解説する。
民主党幹部に太いパイプを持つ田原氏は、「菅さんにきわめて近く責任ある立場の複数の民主党議員」から直接取材したマイナスのエピソードをこう明かす。
「彼らが口をそろえて言うのは、『菅さんは下からあがってくる意見を一切無視する。聞く耳も持たない。しかも、手前勝手なその場限りの策ばかりを弄する』というものだ」
菅首相は、小沢系の民主党議員だけでなく、実はごく身近で仕えている議員からも強い反発をかっているのだ。
「周囲で『人災ではなく菅災だ』と言われていることに、どうやら菅さんは気がついていないらしい。『裸の状態』なのである」と田原氏はもはや憐れみを込めて書く。
菅首相批判は民主党最大の支持団体からも出ている。財部誠一氏は日本労働組合総連合会(連合)の幹部発言を次のように引用する。
「この国難に与野党協力はもちろん、官僚の力も総動員して事に当たるべきだ。それなのに菅首相は自己保身に汲々となり、党内では依然として小沢、反小沢で睨みあいを続けている」
さらに、「菅直人総理には日本の産業の先行きなどまったく眼中にないのだろう。産業空洞化への危機感は微塵も感じられない。民主党の本質はやはり『アンチ産業界』のままなのだろう」と、“経済に疎い”と揶揄される菅首相に厳しい一撃を加える。
米マサチューセッツ工科大学で原子力を専攻し博士号を取得、その後に原子力発電プラントの開発に携わった経験のある大前研一氏は、福島原発の事故対応をめぐる政府の無為無策ぶりを痛烈に批判する。
「警戒区域への指定については最も強く批判されていいものの一つだと思う。現在発表されている程度の放射線量が事実ならば、規制を強化する理由はないはずだ」と指摘し、警戒レベルを引き上げた政府の対応は「国民の不安をあおっているだけではないか」と疑問を呈する。
そして、政府主導で警戒区域を拡大していけば、そこで生じる損害賠償は「最終的には私たちの税金で賄うことになる」。
日本の借金が国民総生産(GDP)比で200%に近づいている現状に警告を鳴らし続ける大前氏は、原発事故の賠償が莫大な額に膨れ上がることに対して危機感を抱いているのだ。
5月14日に急性心筋梗塞で亡くなられた花岡信明氏の遺稿となったのが「『浜岡原発停止』まで政局に利用した菅首相」だ。
菅首相は5月6日午後7時10分、NHKニュースの時間枠に合わせて緊急記者会見を行った。
「国民の皆様に重大なお知らせがあります」と切り出した菅首相は、浜岡原子力発電所にあるすべての原子炉の運転を停止するよう中部電力に要請したと発表した。
「あのタイミングで打ち出されたのは、まさに絶妙だった。そういってはなんだが、菅首相はこの手のことには動物的カンを持っている」と花岡氏。
なぜ、絶妙なタイミングだったのか。それを政局的観点から見ながら、次のように解説する。
5月2日に、4兆円規模の第一次補正予算が成立した。そにより、封印されていた「菅降ろし」に解禁されるサインが送られたことになる。
「菅降ろし」を目論むのはもちろん小沢系の議員たちで、彼らは菅首相の震災対策への指導力不足を批判。それを理由に本格的な行動に移そうと考えていた。
しかし、浜岡原発停止という策を打ち出されては、小沢系グループの「菅降ろし」の理屈が成り立たなくなる。
「小沢氏らにしてみれば、浜岡原発停止で大騒ぎしているときに、首相を引きずりおろすことなど、できるわけがない。かくして、『連休明けの菅おろし』の動きにはひとまずブレーキがかけられたのである」と花岡氏は読み解き、筆を置いた。
「ひとまずブレーキがかけられた」と書いたのは、いずれ「菅降ろし」の機運が再び訪れると花岡氏は踏んでいたのだろう。
以上、5人の論者が書いた記事を点検してみると、菅政権の「大震災後の通信簿」は「不可」としか付けようがない、と言えそうだ。
引用、以上。
産経のみならず、読売新聞も海水注入中断事件の糾弾、西岡武夫参院議長寄稿全文の掲載等、「菅降ろし」の旗幟を鮮明にしています!