【「復興増税」か「インフレ」か】2011年5月16日 日経ビジネス 三橋貴明(経済評論家)氏より
3月11日に東日本大震災が発生し、早期の復興を実現するための財源が議論になっている。
予め書いておくが、大震災からの復興財源を「増税」に求めた国など、歴史上、1つも存在しない。
何しろ、震災で国民の支出意欲は萎縮しているのに、増税はそれに拍車をかけるのである。
「復興財源を税収で賄う」とは、国民経済から生み出される付加価値、すなわちGDPから政府に分配される付加価値の取り分を増やし、それを復興財源に充てるという話である。
ただでさえ萎縮している国民の支出意欲を削ぐと、結局は増税分の効果がGDPの低成長により相殺され、政府の税収が前年比マイナスになってしまう。
実際、1997年に消費税率が引き上げられた際、三大税(所得税、消費税、法人税)の合計は、逆に下がってしまった。
財政健全化を求めて「増税」をした揚げ句、減収になってしまったのである。当然の成り行きとして、財政は健全化されるどころか悪化した。
図1-1 1997年と98年の三大税の比較(単位:円)
年度/消費税/所得税/法人税/三大税合計
1997年/7兆4644億//20兆7104億/13兆5004億/41兆6752億
1998年/8兆4235億/17兆4210億/12兆0210億/37兆8655億
上記の通り、97年から翌年にかけ、確かに消費税は増えたのだが(税率がアップしたため、当然だ)、所得税と法人税は大きく落ち込んだ。
結果、三大税(消費税、所得税、法人税)の合計は、1997年が41兆6752億円、1998年が37兆8655億円と、4兆円近くも減少してしまったのである。
復興予算さえまともに執行できなくなる
断っておくが、筆者は別に「増税」について、イデオロギー的に反対しているわけでも何でもない。
増税することで財政健全化や「復興と成長」が本当に実現できるのであれば、むしろ率先して賛成する。
とはいえ、デフレ環境下にある国において増税を実施しても、単に民間の支出意欲や借り入れ意欲を削ぎ、GDPを削り取るだけの話だ。
結果、98年の事例が示す通り、政府の税収はむしろ減り、財政は増税以前よりも悪化する羽目になる。
また、震災復興の財源を消費税増税で補おうとすると、国民の経済活動の縮小を招き、やはり税収が減ることになる。
結局は、復興予算さえまともに執行できなくなり、成長はおろか、復興さえもおぼつかない有り様になるだろう。
もし、現在の日本がインフレであるならば、話は全く別だ。国内の供給能力が不足し、需要を抑制する必要があるのであれば、増税は1つのソリューション(解決策)になり得る。
あるいは、歴史的に前例がないとは言え、日本がインフレ環境下にあるならば、復興の財源を増税に求めることは検討に値するかもしれない。
とはいえ、現実の日本はデフレに悩んでいるのである。
デフレという、国民の支出意欲が低迷している状況で、さらに国民の支出意欲を縮小させる大震災が発生した。
その上で、さらに国民の支出意欲を削ぎ取る増税をして、いったい政府は何をしたいというのだろうか。
消費増税の理由が猫の目のように変わる思い出して欲しい。
民主党は消費税アップについて「4年間は議論もしない」と宣言し、政権を取ったはずである。
ところが、2009年末頃から、消費税アップの議論が、まさに降って湧いたように次々と出てきている。
しかも、「消費税アップの理由」が、毎回、違うのだ。
2009年下旬、当時は経済財政政策担当大臣の座にあった現首相の菅直人氏は、「景気対策として財政出動をするために、消費税アップを」などと言い出した。
消費税アップでGDPの民間最終消費支出を削り取り、同じくGDPの公的固定資本形成(公共投資)として支出するという話だ。
まさしく、パイの一部を切り取り、別のところにくっつけるだけという話で、率直に言って意味不明であった。
ところが、2010年6月に鳩山前首相が辞任し、菅氏が首相の座に就くと、今度は、「ギリシャは財政破綻した。日本の財政状況はギリシャよりも悪い。だから、消費税をアップする」などと主張し始めた。
経常収支黒字国、世界最大の対外純資産国である日本の「自国通貨建て国債」を、経常収支赤字国で、対外純負債国であるギリシャの「共通通貨建て国債」と混同するという、マクロ経済的にとんでもないレトリックを用い、2010年7月の参議員選挙に挑んだ。
そして、結果的に民主党は敗北した。
これで、消費税アップの話はなくなったのかと思いきや、今度は「税と社会保障の一体改革」などと言い出した。またもや、目的は消費税アップである。
「財政出動のための消費税アップ」「ギリシャのように財政破綻しないために消費税アップ」「社会保障のために消費税アップ」と、消費税を上げる理由が、まさしく猫の目のようにクルクルと変わる。要するに、消費税をアップするという結論が決まっており、そのための理由を、その当時のトピックスに合わせて「作り込んでいる」だけという話だ。
そして、今度はついに「東日本大震災から復興するための消費税増税」である。歯に衣を着せずに言えば、「震災を利用して」元々の政治的意図である消費税アップを実現しようとしているとしか思えない。
しかも、今回の復興増税論に際しては、「東日本大震災復興の負担を国民で分かち合うために、消費税アップ」という、日本国民が反対しにくいレトリックを用いている。何というか、正直「そこまでやるか」と嘆息する以外に、感想の言葉が出てこない。
引用、以上。
三橋貴明氏の結論は、デフレ期に増税をすると、国民の支出意欲が削がれるため、国債の発行と復興事業のための大胆支出をなすべきだということです。
なぜなら、デフレ期には失業率が高まり、平均給与が下がり、また、物価が継続的に下落すため、支出を先延ばしにして「より安く買えるかも知れない」という心理が働きます。そんな環境において増税したら、ますます支出は少なくなるからです。
そうではなく、政府は国債の発行と日銀のマネタリーベース拡大、さらには復興事業のために支出を拡大すれば、インフレが起こり、「今、買わなければ、来年はもっと高くなってしまうかもしれない」ことから支出意欲が高まると指摘しています。
経済学的な立場から、国民の支出が削がれる「消費税増税」なのか、物価上昇という形で、震災復興の負担を国民が分かち合い、国民の支出意欲が高まる「インフレ」政策か、デフレに苦しむ現在の日本にとって、適切な政策はどちらなのかを三橋氏は問うています。
同氏の経済理論はデフレ脱却のための積極財政支出など、幸福実現党との政策の共通点は多いものの、完全に一致しているわけではありません。
例えば、三橋氏は「日経ビジネス」誌で「規制緩和、官業の民営化、生産性の向上」などは供給力強化、価格競争をもたらし、デフレを悪化させると反対しています。同氏の「TPP亡国論」も同主旨です。
総需要(消費、投資、政府支出、純輸出)が一定(増えない)、若しくは減少する中では、供給増大や価格競争はデフレに繋がりますが、積極的な財政政策や金融政策と連動することで「規制緩和、官業の民営化、生産性の向上、TPP」は結果的に競争力、生産性、付加価値、国際競争力を強化するため、「経済成長」をもたらし、景気を良くします。
幸福実現党の経済政策は、財政政策、金融政策、規制緩和、未来産業等の経済成長等政策をベストミックスした政策であり、どの政党にもないトータルで先進的な経済政策であることが特徴です。