【防衛省が対中有事を想定 指揮・機動展開態勢強化へ】2011年5月9日 産経より
防衛省が、昨年12月に策定した新たな「防衛計画の大綱」に基づき、自衛隊の警戒監視・機動展開態勢などの強化策を検討するにあたり、沖縄県・尖閣諸島が中国に占領されるシナリオを作成していたことが8日、分かった。
偽装漁民の不法上陸に始まり、宮古・石垣両島への武力侵攻までを想定、自衛隊の奪還作戦に踏み込む。対中有事シナリオの全容が明らかになったのは初めて。
新大綱策定を受け、防衛省は「防衛力の実効性向上のための構造改革推進委員会」を設置。
検討グループに陸海空3自衛隊の「統合による機能強化・部隊のあり方検討」を設け、機動展開態勢と指揮統制、警戒監視を課題に挙げた。
これらの課題検討にあたり、今年に入りモデルケースとして尖閣占領シナリオを秘密裏に作成した。
シナリオは大別すると3つの局面で構成される。
《(1)偽装漁民が不法上陸》
漁民を装った中国の海上民兵が尖閣諸島に上陸後、中国は「漁船が難破した」と主張。沖縄県警の警察官が尖閣に乗り込み、入管難民法違反の現行犯で逮捕。海上保安庁の巡視船も周辺海域に展開する。
《(2)海上警備行動で自衛隊出動》
中国はこれに対抗して国家海洋局の海洋調査船「海監」を派遣。海監は大型・高速化が進み、海保の巡視船では排除できないと判断し、海上警備行動発令により海上自衛隊の艦艇や航空機が出動する。
これに中国は「日本が不当な軍事行動を仕掛けてきた」と国際社会にアピールする。
《(3)南西諸島に武力攻撃》
中国が海軍艦艇を投入する。海自艦艇などは武力衝突に発展するのを恐れ海域を離脱。警察官も撤収する。
間隙を突くように中国は米空母の介入も防ぐため宮古島や石垣島に武力侵攻する。
この段階に至り防衛出動を発令、海・空自の艦艇や航空機を集結させ、米軍も展開する。陸自部隊は奪還作戦に入る。
このシナリオに基づき、3自衛隊は態勢を見直す方針。東日本大震災への対応でも適用された「統合運用」の態勢強化に主眼を置く。
「統合任務部隊」も編成されるが、陸自の西部方面総監や海自の自衛艦隊司令官が指揮官を務めるのは困難とされ、オールジャパンの部隊を指揮する司令部機能をどう担保するかが課題になる。
また、シナリオに対処するには、警戒監視機能の向上や、陸自部隊を展開させる海・空自の輸送力強化が不可欠だ。無人偵察機の導入も主要な論点となる。
陸自が駐屯していない石垣島など先島諸島では弾薬・燃料も常備されておらず、事前集積拠点の確保策も詰める必要がある。
防衛省は6月までに、早急に対処すべき課題と中長期で取り組むべき課題に整理し、平成24年度予算案概算要求に反映させる方針。
引用、以上。
防衛省が防衛計画の大綱に基づき、尖閣諸島占領シナリオを策定し、そのシナリオを基に基本的な方針を定めようとしていることが明らかになりました。
防衛省が尖閣諸島侵攻のシナリオ研究を始めたことは評価できますが、戦略としては不十分な内容です。
尖閣諸島の占領に比較的良く似ていると言われているのは、1982年のフォークランド紛争の事例ですが、イギリス政府発行の公刊戦史からフォークランド紛争の経過を辿っていくと、以下の2つが鍵になります。
(1)一度奪われた島を取り返すのは難しい、(2)事後の奪還よりも、事前のパトロールが大事。
本シナリオは、尖閣諸島に侵略、実効支配されることが前提になっていますが、「尖閣諸島に接近させない戦略」を基本とすべきです。その理由は、以下の通りです。
(1)フォークランド紛争に限った話ではなく、第二次世界大戦・大東亜戦争末期の数々の戦闘ー硫黄島の戦い、サイパン島の戦い、ペリリュー島の戦いによって、優勢であるはずの攻撃側のアメリカ軍が守備側の日本軍から大損害を被ったように、島嶼防衛は守備側にアドバンテージがあります。
フォークランド紛争においては、圧倒的に優位な軍事力を持つイギリス軍が、駆逐艦2隻、フリゲート2隻、コンテナ船1隻、揚陸艦1隻が沈没し、数多くの艦艇が大破しています。
すなわち、「尖閣諸島を奪われてから、奪還を目指す」という防衛省の戦略スキームは、奪還できたとしても損害は大きくなります。
幸福実現党が主張しているように「尖閣を守り抜く」ことを基本戦略とすべきではないでしょうか。
(2)フォークランド紛争の始まりは、アルゼンチン海軍の輸送艦で運ばれたアルゼンチンの解体業者が、アルゼンチン統治時代に作られた工場の解体と称し、入国手続きを一切無視してサウスジョージア島に上陸した事件が発端でした。
この段階で、イギリス側は潜水艦の派遣を検討していた経緯がありますが、実際には派遣されませんでした。もしこの時、派遣がなされていれば、アルゼンチン側はこのような暴挙には出なかったのではないかと考えられています。
幸福実現党は声明等で、侵略勢力の南西諸島への接近を阻止すべく、海上自衛隊及び航空自衛隊を配備、増強することを提言していますが、これは「事前のパトロールが大事」との思想に基づいています。
フォークランド紛争の場合は、地理的要件においてイギリス側は圧倒的不利な立場にありました。
紛争で争われたのはフォークランド諸島とサウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島の領有権でしたが、アルゼンチンからは500km程度しか離れていなかったのに対して、イギリスからは12,000kmも離れていたのです。
尖閣諸島も似たような状況にあります。中国の東海艦隊の基地である上海から尖閣諸島までは直線距離で約300kmですが、日本の最寄りの海上自衛隊基地である佐世保基地から尖閣諸島までは直線距離で約1,000km離れています。
沖縄の自衛隊は、海上自衛隊戦力は艦艇部隊が配備されておらず、陸上自衛隊は戦車、攻撃ヘリ等が配備されていません。航空自衛隊も戦闘機配備はわずか16機のみ等、事実上の戦力を有していません。また、沖縄の自衛隊向けの港湾や空港、補給処の整備等も不十分です。
フォークランド紛争の時のイギリスほどではありませんが、日本にとって、尖閣諸島防衛は大変不利な立場に置かれていることは否めません。
政府は、沖縄の自衛隊配備を強化し、沖縄を日本を守るセンターとしていく必要があります。
沖縄の自衛隊配備を強化できれば、地理的不利は改善されると共に、在日米軍とも連携することにより、戦力を倍増させることができるからです。
しかし、このような施策を実行するには、自衛隊側の戦略研究もさることながら、政治のリーダーシップが何よりも重要です。
フォークランド紛争の際にも時のイギリス首相マーガレット・サッチャーは、素晴らしいリーダーシップを発揮しました。
イギリス軍を叱咤激励して戦線を支え、外交交渉でアルゼンチンを追い詰め、ついにフォークランド紛争に勝利することができたのです。
市民運動家である現在の日本の首相にサッチャー首相のレベルまで要求することは無理かもしれません。
しかし、国土防衛は一国の宰相になったからには逃れられぬ責任であり、最低限こなさなくてはならない仕事の一つなのではないでしょうか。