【米、日本の原発警備注視―対テロ攻撃が焦点】2011年5月7日 朝日より
米国外交官らが日本各地の原子力発電所や有事訓練を視察したり、警備体制の強化を求めたり、日本の原子力政策の動向に強い関心を寄せてきたことが、米外交公電から明らかになった。
焦点は、地震や津波などの自然災害ではなく、原発テロへの備えにあった。
内部告発サイト「ウィキリークス」が入手した2006年から10年2月にかけての日本関係の米外交公電約7千点を朝日新聞が分析した。
原発に関する公電の多くで外部からの侵入攻撃に備えた警備体制に注目している。
米大使館員が06年11月に新潟県の東京電力柏崎刈羽原発を訪問した後の公電では、出入り口の数や武装警官の配置の有無、警察と海上保安庁の連携ぶりなどが書かれている。
同時期の中国電力島根原発への訪問報告には、外周フェンスや侵入者探知センサー、監視カメラの設置状況などが記されている。
北海道電力泊原発や九州電力玄海原発を訪問した記録もある。
国民保護法に基づき、福井県の関西電力美浜原発で初めて実施された05年11月のテロ訓練を、米大使館の環境科学技術担当者は唯一の外国人として視察。
公電に「国内に点在する54基の原発に外部からの脅威が存在することを、日本政府は認識し始めている」と記したが、台本通りの訓練で「テロ攻撃を受けた場合の電力会社の保安対応のテストになっていない」と批判した。
別の公電では、06年9月に茨城県で実施された対テロ訓練について、一部の参加者は訓練の真っ最中に台本を読んでいて、市民は避難の開始時間を事前に知らされていた、などと書いて問題視している。
07年2月、米国務省の原子力担当幹部らが訪日して日本側との会合に臨んだ。
その報告をした公電によると、米側が、茨城県東海村の原子力関連施設に武装警備がないと指摘。
文部科学省の職員は「個々の原発への脅威水準と武装整備の必要性を判断するのは、電力会社と警察だ」と応じつつ、東海村については「十分な脅威が確認されていない」と答えたという。
公電は、核兵器転用が懸念されるプルトニウムに関して、東海村が「主要な貯蔵場所」と指摘、武装警備は必要だと示唆している。
この会談で米側は、原発従業員への身元調査も促した。
文科省は、関連会社も含めた全労働者への調査を政府が義務付けることは憲法で禁じられていると説明した。
しかし、「文科省は、日本政府による身元調査は『非公式に』実施されている可能性はあると認めた」とも記されている。
07年9月の公電によると、米エネルギー省のアオキ副次官(対テロ担当)が来日した際、米側は、現時点での確度は低いとしながらも、日本の原発に対する北朝鮮の脅威について国防情報局(DIA)のブリーフィングを紹介。
一方で日本側は、国際テロ組織アルカイダの脅威を強調し、「日本は米国の強固な同盟国で、イラクやアフガニスタンで米国側に加担したため、テロの危険が増した」との認識を示した。
引用、以上。
ウィキリークスの漏洩文書から、米国は、日本の原子力発電所へのテロに強い関心を示していることが分かります。
しかし、米国は「対テロ戦争」という位置付けよりも、「PSI(Proliferation Security Initiative、拡散に対する安全保障)」という位置付けから重視しているものと考えられます。
なぜなら、原子力発電所にはウラン・プルトニウムを大量に含む「使用済み核燃料」があるからです。
日本は既にプルトニウム45トンを保有し、長崎型原爆5000発の核弾頭を製造する能力を有しています。
原子力発電所が襲撃され、使用済み核燃料が奪われれば、核兵器の原料に使われるのは火を見るより明らかです。
対テロ戦争においては、空港での検査の強化などの対策が取られていますが、作業員の身元調査も原子力発電所を守るために必要な対策だからです。
原発で働く作業員は原発の構内に入ることができます。構内に入ることができれば、内部から原発を襲撃し、使用済み核燃料を奪ったり、原発そのものを破壊することもできます。
アメリカ側は東海村に対して「武装警備は必要」だと示唆していますが、対テロ戦争を戦うアメリカと、ぬるま湯に浸かった日本との温度差はかなりのものがあります。