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2011/04/23 【有人飛行技術で世界を突き放せ】

【有人飛行技術で世界を突き放せ】VOICE5月号 中野不二男(ノンフィクション作家/工学博士)より

オバマ政権は、緊縮財政による宇宙予算削減を理由に、専門家で構成する委員会を設置し、計画に全面的な見直しを命じた。

月探査も火星探査もロケット開発も中止しようとしたのである。同時にISS(国際宇宙ステーション)からの撤退も検討させた。

だがISSから米国が撤退することは、日本をはじめとする他の参加国からの信頼を失うことは明らかである

米国のこうした動向は、日本にとって何をもたらすだろうか。プラスに働くのか、マイナスに働くのか。答えは、日本の出方次第だろう。

もし日本に、積極的に今後の宇宙開発を進めようという意思があれば、これは好機以外の何ものでもない。

かつて日本の宇宙開発は、何かにつけて米国に振り回されてきた。

しかし米国がISSからから少し体重を抜くことにより、日本はそうした呪縛から解放される。

そのうえHTV宇宙ステーション補給機、愛称「こうのとり」)を手にしたのである。物資の輸送に限定されているとはいえ、スペースシャトルの機能の一部を日本が実施しているのだ。かつてない優位な立場になってきたのである。

さらにラッキーというか、ISSの運用が2020年まで延長になろうとしているのだ。この延長期間は日本にとってじつに貴重である。

HTVは、現在は無人の運用になっているが、ISSに直接ドッキングする貨物室に滞在中の宇宙飛行士が出入りしているように、基本的には有人仕様である。

したがって、今後の運用によって技術データを蓄積していけば、日本は有人宇宙技術を獲得できる。

ただし、それには条件が付く。HTVの運用により、たしかに有人宇宙技術を獲得することは可能になる。

しかし、日本は有人宇宙に向けた輸送手段をもっていない。“足”を手に入れていないのである。

有人宇宙輸送のロケットは、衛星打ち上げ用とは大きく異なる。

万が一の事態に備えたアボート・システムがなければならない。宇宙飛行士を乗せたカプセル等をロケット本体から分離し、安全な空域の高度にまで運ぶ、小型ロケットによる離脱システムである。

たとえH-?Aロケットを原型にした有人ロケットの開発が可能であっても、HTVを有人カプセルに改造できても、アボート・システムがなければ人を運ぶことはできない。

日本は、迷わずに着手すべきだろう。

輸送系の技術というのは、一朝一夕にできるものではない。技術研究から安定した実用段階になるまでには、十年や二十年はかかるものだ。

有人宇宙輸送が国の計画としてスタートしてからでは遅すぎる。

ゴーサインが出るまでアボート・システムの研究が認められないというのであれば、新型の推進システムとでも看板を掛けて、粛々と要素研究を進めるべきだ。

いま、日本の宇宙開発はほぼ順調に進んでいるといってよいだろう。しかしその順調な進展を支えているのは、二十年前に生まれた技術である。

以後、画期的な技術は登場していない。言葉は悪いが、現在の順調な進捗状況は、過去の遺産を食いつぶしているのである。

日本にとって最高の好機を迎えているいま、一歩先のフェイズへと踏み出さなければ、技術と頭脳がいずれ枯渇してしまう。

そうなってからでは遅いのだ。

引用、以上。
「はやぶさ」の成功や、国際宇宙ステーション(ISS)への無人補給機「こうのとり(HTV)」2号機の「完璧な成功」、若田光一氏の宇宙ステーション・コマンダー就任等、日本の宇宙技術開発は明るい話題が続いています。

同時に、米国のスペースシャトルが退役することにより、ISSへの物資輸送は日本のHTVが主役になるなど、世界からも「日の丸」宇宙技術が高い注目を集めています。

『ザ・ネクスト・フロンティア』第4章「アダム・スミスとの対話」には「宇宙を目指したところは、やはり、最高の技術水準を手に入れることができるし、その最高の技術水準を手に入れたところが、結局、産業界をリードすることができるようになる」
「『未来において実を結ぶところに一定の投資をし、開発していく』という部分を持っていなければならない」と述べられています。

本記事は、オバマ政権が緊縮財政による宇宙予算削減を理由に、アメリカが宇宙事業から撤退傾向にあることを指摘。日本にとっては、世界を突き放す好機だと主張しています。

本記事にありますように、宇宙技術開発は十年、二十年という単位を要するものです。

私は、従来から航空・宇宙事業開発、有人宇宙飛行技術の獲得に向け、積極的な財政投資政策を掲げます。

政府は即刻、「宇宙技術で世界をリードする日本」をスローガンに、有人宇宙技術開発に向けた積極的投資と国論の喚起を図るべきです。