【「イスラエルとの平和条約破棄」=新政権主導へ意欲―エジプト・ムスリム同胞団】2011年2月2日 時事通信
エジプト最大のイスラム原理主義勢力、ムスリム同胞団の最高幹部の一人でカイロ大学教授のラシャド・バイユーミ氏は2日までに、ムバラク大統領退陣後の政権で主導権を握ることに強い意欲を示し、エジプトが1979年にイスラエルと締結した平和条約を破棄するほか、米国の援助拒否、シャリア(イスラム法)導入など、政策の抜本的修正を目指す意向を表明した。
バイユーミ氏は同胞団内で最高指導者に次ぐ幹部3人の1人。時事通信のインタビューに対し、同胞団の一致した見解として明らかにした。
欧米諸国は親米ムバラク政権の退陣後のイスラム勢力台頭を懸念しており、バイユーミ氏の発言は欧米側を一層警戒させる材料になりそうだ。
同氏は「最高憲法裁判所長官と協議し、暫定政権を設け、民主選挙を容認する憲法改正などを経た後、大統領選や議会選に候補を立てる」と言明。
改憲については、大統領再選回数の制限のほか、宗教政党容認、シャリアに基づく犯罪処罰規則の導入を求める考えを示した。
さらに、イスラエルとの平和条約を「平和的な条約ではなく、エジプトにとって降伏条約だ」と批判。「新政権ではパレスチナ問題の解決が最重要外交課題になる」と語った。
米政府の巨額の対エジプト援助に関しては「米国は中東諸国を破壊する敵だ。援助を受ければ米国の意向に従う必要がある」とし、新政権入りすれば援助を拒否する姿勢を明確にした。
ムスリム同胞団を弾圧してきたムバラク大統領については、退陣後に「不正蓄財や政治犯弾圧、デモ参加者殺害などの犯罪行為での訴追を求める」と述べた。
以上、エジプト情勢は混迷の度合いを増しています。もし、「ムバラク後」に、事実上の最大野党で非合法のイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が政権で主導権を握った場合、本記事からも中東情勢は大変緊迫した事態になることが分かります。
今回のムスリム同胞団のバイユーミ氏の発言として、特に注目すべきは「米国の援助拒否」と「シャリア(イスラム法)の導入」の二つの政策です。
米国がエジプトに対して援助を続けていたのは、親米国家であるエジプトがバランサーとなって、イスラエルとアラブ諸国との間の勢力を均衡させ、中東戦争を抑止する力となっていたためです。
エジプトが「反米イスラム原理主義政権」になり、この抑止のバランスが崩れることがあれば、「第五次中東戦争」は時間の問題と言えます。
元々、エジプトの反政府デモの出発点は「失業した青年たちの不満の鬱積」という経済問題であり、それら不満のガス抜きとして暴動が起きているのが実情ですが、それらの不満の根本原因となっている経済問題を「ムスリム同胞団」が解消することができるかは「未知数」です。
なぜなら、現在の中東におけるイスラム教(特にイラン、アフガン、エジプト等)にはグローバルな経済活動に適応困難な因子が見られるためです。
日本のエネルギー供給と安全保障に多大な影響を持つ中東情勢の成り行きに今後も注視していく必要があります。