集団的自衛権容認の議論に先立ち、いわゆるグレーゾーン事態への対処の議論が自公間で始まりました。
自民党はグレーゾーン事態についていくつかの事例をあげて公明党に説明に入った模様ですが、グレーゾーン事態のうち、日本の離島などに武装集団が上陸し不法行為を行った場合への対処や、公海上で訓練をしていた自衛隊が日本の民間船舶が武装集団から不法行為を受けている事案に遭遇した際の対処について、公明党内から「現実味のない事例であり、国民が理解できるような、分かりやすい事例を示してもらいたい」との意見が出されたとのことです(※1)。
しかし、中国を念頭においた場合、離島などに漁民を装った武装集団が上陸する事例などはたいへん現実味のある事態です。
南シナ海の南沙諸島で中国が実効支配を始めたきっかけは、自国の漁民の保護でしたが、中国では漁民が海洋進出の先兵と位置付けられているのです。
現在も、西沙諸島での中国による一方的な石油掘削をめぐって中越が緊張しています。
周辺のベトナム船舶に対する威嚇に中国漁船が動員されており、中国漁船に体当たりされたベトナム漁船が沈没するという事件も起こっています(※2)。
また、「沖縄県の尖閣諸島を自国の核心的利益と位置付ける中国は、尖閣諸島を奪取するにあたって武装した漁民を上陸させる」というシナリオは当初から指摘されていたものです。
グレーゾーン事態の議論で、こうした事例をあげて準備を整えることは、中国による尖閣諸島奪取のシナリオの選択肢を狭めることにも繋がります。
有事の際の戦略の基本は相手の裏をかくことです。
そうした事態は「起こらないであろう」と考えるのではなく、「起こるかもしれない」と考えるべきであり、楽観的な思考は、政権を預かる者として危機感が薄いと言わざるを得ません。
※1:5月27日付NHKニュースhttp://www3.nhk.or.jp/news/html/20140527/k10014770781000.html
※2:同読売新聞http://www.yomiuri.co.jp/world/20140526-OYT1T50230.html