【IAEA提案―日本は潮流を読み誤るな】2011年6月27日 産経 主張より
東京電力福島第1原子力発電所の事故を踏まえて、原子力発電の安全強化策を討議していた国際原子力機関(IAEA)の閣僚級会合が議長総括を発表して閉幕した。
チェルノブイリに続く今回の過酷事故から導き出された多くの教訓を、世界の原子力発電所の安全運転や事故時の緊急対応などに反映していくための合意が得られた。
日本は事故の収束に全力を傾注するとともに、透明度の高い情報発信を続けることで、世界の不安解消に努めねばならない。それが事故を起こした国の責任だ。
ウィーンで24日まで行われた5日間の会合では、IAEAの天野之弥事務局長が示した5項目の特別提案を軸に議論が進んだ。まずは、このことを評価したい。
そうしてまとまった議長総括には、世界の原発をIAEAの専門家チームが抜き打ち的に安全確認の調査をする計画も含まれている。
全体として、IAEA自体の機能強化を図るとともに、国際協力の深化を通じて、安全管理や危機管理の向上を目指す内容だ。9月のIAEA総会に向けて具体的な行動計画案が作られる。
現在、世界の約30カ国が発電に約430基の原発を利用している。
今回の事故をきっかけに、ドイツやスイス、イタリアは脱原発の道を選んだ。だが、それは全体の1割にすぎない。
大多数の原発保有国は原子力発電支持を変えていない。エネルギーの安定供給力の大きさを認識しているからである。
急増する世界の人口を支えるためには膨大なエネルギーが必要だ。
それに対して日本はどうだ。定期検査による停止原発が増える一方だ。
菅直人首相からは再稼働への熱意が伝わってこない。菅首相にはエネルギーの安全保障をめぐる国際情勢が理解できていないようだ。
少数国の原発離れに目を奪われて、世界全体のエネルギー潮流に逆行しようとしている。
世界では新興国を中心に75基の原発が建設中だ。これに加えて約90基の新設計画がある。
原発は増えていく。その安全技術を高めていくのは、事故で世界に迷惑をかけた日本の重要な義務であろう。
IAEAによって示された原発の安全性強化策の実行の先頭に立つのも日本の役割だ。
そのための第一歩は、国内原発の早期再稼働にほかならない。
引用、以上。
電力は「ベースロード」「ミドルロード」「ピークロード」の三種のエネルギーミックスにより成り立っています。
「ベースロード」は必要電力の最もベースとなる部分で、日本では原子力エネルギーや石炭が担っています。その理由は、大量、安定的、かつランニングコストが安く電力を供給できる一方、電力の消費量に応じて出力を調整するには向いていない発電方法だからです。
「ミドルロード」は昼間など、日中で電力消費量が高い時間帯の電力を担う部分で、火力やLNG火力発電所などの瞬発力のある発電方法が使われます。
「ピークロード」はお盆休み、高校野球の決勝など、瞬間的に電力消費量が跳ね上がる部分で、夜間の余剰電力を活用して水をくみ上げ、昼間のピーク時に発電する揚水発電なども使われています。
「脱原発」を決めた国、ドイツやイタリアには共通点があります。
それは、「ベースロード」エネルギーの供給国としてのフランスの存在。そして、天然ガス供給国としてのロシアの存在です。
原子力大国フランスは、原発を稼働させて余った電力を近隣の国に売却しています。
先日来日したフランスの原子力企業大手アレバのCEOアンヌ・ロベルジョンは、「ベースロードエネルギーとしての原子力発電は、例え再生可能エネルギーが普及したとしても必要不可欠である」との見解を示しています。
天然ガス供給国として、ヨーロッパでプレゼンスを高めているロシアは、北部ヨーロッパを対象とする天然ガスパイプライン「ノースストリーム」、南部ヨーロッパを対象とする天然ガスパイプライン「サウスストリーム」を稼働させ、ヨーロッパ各国に対するエネルギー供給を強化する戦略をとっています。
ドイツは、ドイツ社会民主党のシュレーダー首相が政権を握っていた時代に、ロシアと共にノースストリーム計画を推進してきた実績があり、今回の思い切った政策転換が可能となりました。
イタリアも同じです。ロシア本土からトルコを経由するサウスストリームの恩恵と、イタリアがかつて宗主国であったリビアからのエネルギー供給を受けています。
イタリアがリビア動乱の際に、空母を派遣したのも、リビアを早く安定させてエネルギーを得たいために他なりません。
「脱原発」の旗手ドイツ・イタリアと日本の違いは、ベースロードエネルギーを供給国してくれる隣国(フランス)の存在です。
また、ヨーロッパ諸国はEU(欧州連合)として協調しているため、エネルギーの融通もしやすいと言えます。
しかし日本の近隣には、フランスのようなベースロードエネルギー供給国はありません。
ロシアにしても領土問題が足かせとなり、エネルギーの安定供給は受けにくい情勢ですし、ロシアへのエネルギーの過度な依存はリスクがあります。
さらに四方を海に囲まれている日本としては、エネルギー安全保障の確保に血道を上げて取り組むべきです。
定期点検中の原発を再稼働すべである理由はひとえにこの点にあります。
世界は日本が最高レベルの技術を持っていると見ており、日本が今回の事故を乗り越え、安全な原発技術を開発することを期待しています。
記事に「原発の安全性強化策の実行の先頭に立つのも日本の役割だ」とある通り、日本は安全な原発技術を確立し、世界をリードすべきです。